「広告費を増やす」その前に——約2年で月商を平均約6.3倍にしたECサイト運用事例
この連載は、あるアパレルブランドのEC事業を、私たち株式会社シースリー・ブレーンが約2年にわたって伴走した記録です。社名やブランド名は伏せますが、施策の考え方と実行プロセスはすべて実話に基づいています。
「広告費を増やせば売れる」——その思い込みが、成長を止めていた
「毎月きちんと広告費を使っているのに、売上が思うように伸びない」「どこをどう直せばいいのか、正直わからない」「気づけば予算だけが毎月溶けていく」——。ECで広告を回している方なら、一度はこんなモヤモヤを抱えたことがあるのではないでしょうか。
私たちがこのアパレルブランドに関わり始めたとき、まさにこの状況でした。広告は回っている。予算もそれなりにかけている。それでも、売上は横ばい。費用対効果(ROAS)は伸び悩み、「かけた分だけ出ていくお金が増えていく」感覚だけが残っていました。
ただ、誤解しないでいただきたいのは、このブランドの商品が悪かったわけでは決してない、ということです。むしろ逆で、ブランドの知名度は十分にあり、ファンもいて、商品の魅力も本物でした。それでもEC単体で見ると売上が伸び悩んでいた——これは、多くの良いブランドが共通してぶつかる壁でもあります。店舗や他チャネルでは評価されているのに、自社のECだけがなぜか伸びない。そんなケースは決して珍しくありません。
よくある打ち手は「広告費をもっと増やす」こと。でも、それだけでは景色は変わりませんでした。それどころか、土台が整っていない状態で予算を増やすと、「出ていくお金」だけが膨らんでしまうことさえあります。
私たちが最初に見たのは「広告の外側」だった
ご相談をいただいたとき、私たちがまずしたのは、広告の管理画面を開くこと……ではありませんでした。最初に確かめたのは、「広告をクリックした人が、そのあとどんな体験をしているか」です。
家にたとえるなら、広告は「お客様を玄関まで案内する道」、サイトは「家そのもの」です。どんなに立派な道を作ってお客様を招いても、家の中が散らかっていて欲しいものが見つからなければ、お客様はそのまま帰ってしまいます。しかも、その人を呼ぶために使った広告費は、丸ごとムダになってしまいます。
実際に見てみると、いくつかの「もったいない」が見えてきました。せっかく興味を持って訪れたのに、欲しい商品にたどり着きにくい。どれを選べばいいか迷ってしまう。その人に合った商品がうまく見せられていない。つまり、伸び悩みの原因は広告の「量」ではなく、その手前にある「土台」と「届け方」にあったのです。
だから私たちは、いきなり広告を増額するのではなく、「売れる状態を先につくる」ことから始めました。順番を間違えないこと。これが、この2年間のすべての出発点でした。
まず整理したのは「どこで売上が止まっているのか」
ここで大切なのは、売上をひとつの数字として見ないことです。売上は、大きく分けると「集客数 × 購入率 × 購入単価 × 購入回数」でできています。つまり、アクセスが足りないのか、来てくれた人が買いにくいのか、一回あたりの購入額が低いのか、リピートにつながっていないのか——詰まっている場所によって、打つべき手はまったく変わります。
私たちが最初に行ったのは、広告運用の細かな調整ではなく、EC全体の健康診断でした。広告、サイト導線、商品カテゴリ、購入後の関係づくりまでを一つの流れとして見直し、「どこから直せば売上につながりやすいか」を整理したのです。ここを飛ばして広告費だけを増やしても、同じ場所でお客様が離れてしまいます。
まずやったのは、広告の“出し方”を整理すること
土台と並行して、広告そのものの「出し方」も見直しました。といっても、いきなり難しいことをしたわけではありません。
靴屋さんを想像してみてください。メンズもレディースもキッズも、全部同じ棚にごちゃまぜに並んでいたらどうでしょう。お客さんは目当ての商品を見つけられないし、お店側も「誰が何を探しているのか」がわかりません。広告もまったく同じでした。このブランドでは、主力商品もギフトセットも小物類も、すべて1つのキャンペーンに押し込められていました。
今のGoogle広告は、AI(機械学習)が「どんな人が買いやすいか」を過去データから学習して配信を最適化します。ところが、価格帯もターゲットも購買動機もバラバラな商品が混在していると、学習データに一貫性がなくなり、AIが「迷子」になってしまうのです。
そこで私たちは、キャンペーンを商品カテゴリごとに分けました。主力商品は主力だけ、ギフトはギフトだけ、小物は小物だけ。それぞれ独立させ、入札戦略も予算配分も個別に設計しました。たったこれだけで、主力カテゴリの費用対効果は約2倍以上に跳ね上がりました。「それだけ?」と思われるかもしれません。でも、構造を正しく整えるだけで、同じ予算が2倍働く。これが広告運用の現実です。
広告の「向こうにいる人」まで見に行った
キャンペーンを整理した次にしたのは、データを見ることでした。多くのEC事業者が「広告の数字」は見ていても、「広告の向こうにいる人」までは見ていないものです。
このブランドで主力となっていたのは、検索に連動して商品を見せるGoogleのショッピング広告と、InstagramやFacebookでブランドの世界観を届けるMeta広告でした。この2つをチャネル別×年代別で分析してみると、面白いことがわかりました。同じブランドの広告でも、チャネルによって「出会うお客様」がまったく違っていたのです。
出会っている人が違うのなら、同じメッセージを同じように届けても、片方には響き、もう片方にはスルーされてしまいます。だから私たちは、チャネルごとに明確な「役割」を与え、配信のバランスを調整していきました。届け方を変えただけで、サイトへの流入は前年比で約2倍以上に伸びました。どのチャネルに、どんな層が、どんな動機で訪れていたのか——その中身は第3回で詳しくお話しします。
約2年の伴走で、月の売上は平均約6.3倍に
結論からお伝えします。約2年にわたる二人三脚の取り組みの結果、月の売上は平均で約6.3倍に成長しました。直近では前年同期比で売上が約2倍、注文数も約2倍。クリスマスや年末などの繁忙期には、通常月の約2.7倍まで伸びる月も出てきました。広告費率(売上に占める広告費の割合)も、約20%から約17%へと改善しました。
もちろん、数字は結果にすぎません。大切なのは、これが「魔法のツール」や「一発逆転の裏技」によるものではない、ということです。やったのは、どこのECでも取り組める「当たり前のこと」を、正しい順番で、途中で投げずにやり切っただけ。だからこそ、同じ悩みを抱える方にとって再現性のある話だと思っています。
仕組みは「つくって終わり」ではない——毎日の手入れが効いてくる
「結局、何か特別な必殺技があったんでしょう?」と、よく聞かれます。でも、種明かしをすると、特別な裏技は一つもありません。効いたのは、毎日の地味な“手入れ”を、ただ続けたことだけです。どんなに立派な売り場をつくっても、手をかけない店が少しずつ荒れていくのと同じで、放っておけば数字はあっという間ににぶります。だからこそ、毎日少しずつ手を入れ続けました。
やっていることは、とてもシンプルです。商品の売れ行きと、広告から実際に購入につながった数を、毎日のように確かめる。「どの商品が、どの広告から、どんなお客様に届いているのか」を一つずつ読み解き、その日の流れに合わせてバナーや言葉づかいを手直す。動きが重くなった広告は切り口ごと作り替え、勢いの出てきた商品にはすかさず力を寄せる——派手な一手ではなく、こうした小さな微調整の連続です。セールや新作、季節ごとの気分によって、お客様の関心は日々移ろっていくので、広告も立ち止まってはいられないのです。
もう一段こだわっているのが、「売っている商品を、自分たちが誰よりも分かっていること」です。素材の手ざわり、着たときのサイズ感、どんな日に活躍するのか、なぜ人への贈り物に選ばれるのか。そこまで腹落ちして初めて、ブランドが本当に伝えたいことを、集客から購入まで一本の線でブレずに表現できます。商品をよく知らないまま並べた言葉は、どこか上滑りしてしまい、画面の向こうのお客様の心には届きません。
わかりやすい例があります。ある定番アイテムは、はじめ「きれいに畳んだ状態の商品写真」で広告を出していました。それを、実際に身につけたときの質感やシルエットが伝わる一枚に差し替えただけで、お客様の手が止まる回数がはっきりと増えたのです。売っている商品は同じ。変えたのは「伝え方」だけ。それでも、結果はこんなにも変わります。
正直に言えば、これを毎日続けるのは、とても地味で根気のいる仕事です。誰かに自慢できるような派手さもありません。それでも、最後に売上の伸びを左右するのは、この一日一日の積み重ねだと考えています。立派な仕組みをつくることがゴールではなく、その仕組みに毎日きちんと手を入れ続けること。約2年で景色が変わった本当の理由は、つきつめれば、このシンプルな習慣にありました。
やったのは派手な裏技ではなく「5つの地道な柱」
約2年で取り組んだことは、大きく5つの柱に整理できます。
- 土台づくり(サイトの刷新):広告を増やす前に、「売り場」であるECサイトそのものを作り直した。
- 広告構造の再設計:ごちゃ混ぜだった広告を、商品カテゴリごとに整理した。
- データで「誰に届くか」を見る:チャネルごとの顧客像を把握し、届け方を切り替えた。
- ギフト需要への全力対応:購入者の約6割を占めた「贈り物」需要に振り切った。
- 広告に依存しない仕組みづくり:リピーターを育て、広告を止めても売れる「第二の柱」をつくった。
どれか1つだけで成果が出たわけではありません。5つが連動して、相乗効果を生んだ。これが「月商 平均約6.3倍」の正体です。
この連載で、すべてお話しします
第2回以降で、この5つの柱を一つずつ、実際の思考プロセスごと深掘りしていきます。
- 第2回:広告を増やす前にやった「土台づくり」——サイトの作り直しと広告構造の再設計
- 第3回:「誰に売れているか」を数字で見たら、想定と全然違った話
- 第4回:購入者の約6割を占めた「ギフト需要」に振り切った話
- 第5回:広告を止めても売れる仕組みと、値下げをしない理由
「うちも似た壁にぶつかっているかもしれない」。そう感じた方は、ぜひ続きを読んでみてください。
広告費を増やす前に、まずはEC全体のどこに伸びしろがあるかを見直してみませんか。
この記事は、株式会社シースリー・ブレーンの実績をもとに作成しています。広告運用だけでなく、ECサイト・商品導線・データ分析まで含めて現状を整理し、「成果が出ない」「何から手をつければいいかわからない」というお悩みに対して、無料診断で次の一手をご提案します。
株式会社シースリー・ブレーンについて
群馬県前橋市に本社を置くWeb制作・ECコンサルティング会社です(東京・大阪にも拠点)。ECサイトの構築、広告運用、データ分析、ブランディングまでを一貫して支援しています。
ご相談・お問い合わせはこちら: https://c3brain.co.jp/contact